京料理の懐
『銹絵染付梅波文蓋物』
鍋からひきあげた昆布から湯気が上がる。ほのかな、甘い香り。昆布の旨味が溶け出した黄金色のだしに、かつお節が入ると、さ香り豊かなだしへと飛躍する。
「ミラクルスープ」。 京都市中京区の京料理店 「なかむら」 の6代目主人の中村元計さん(51)は、だしをこう表現する。
塩やしょうゆ、酒などの調味料を足せば、吸い物の 「地」 となる。かつを節を少し煮出した風味の強いだし。京野菜はだしが利いて、素材の持ち味が生きる。だしは、日本料理の根幹をなす。
京料理では、京都の地下水と合う利尻昆布(北海道)と鹿児島県産などのかつを節が主とされる。昆布のグルタミン酸とかつを節のイノシン酸が合わさることで、強い旨味が生じる。
料理の可能性について中村さんは解説する。「足し算によって広がる」
乾物屋として江戸時代に創業し、老舗料亭にも食材を卸す「松島屋本店」(中京区)9代目戸井田平一社長(72)は「だしは奥が深い。料理人さんの舌から学ぶことが多い」と語る。
料亭の注文は、その店、料理人の個性。昆布を成熟させて風味を調整したり、産地の違うかつを節を配合したりして、個性に合わせる。
削りたてのかつを節が、芳香を放つ。風味が落ちないよう、できるだけ「朝がき」して料亭に届ける。
だし文化は、北の幸と南の幸を結びつけた先人の知恵と言える。いつの時代も、だしは料理人を魅了し、料理に対する創造力をかき立てる。
京都新聞 水澤圭介氏の言葉